ボディタッチセラピーとは、 手を通じて触れるケアの一つで、 皮膚を撫でる・さする・手を当てるなどの方法を用いて行われます。 タッチにより、痛みが緩和することは経験的に知られていますが、 科学的根拠としてゲートコントロール説やオキシトシンホルモンの関与が考えられています。 特に、オキシトシンは鎮痛のほか、免疫力の向上や人間関係における愛情や信頼関係の構築にも影響を与えることが分かっています。 また近年、他者による接触の有効性、効果の高い接触部位、初心者とエキスパートとの効果の差異など、ボディタッチセラピーの効用を裏付ける研究結果が出ています。
介護職の方は日々、様々な利用者様と向き合いその方にあった心地よいケアを考えています。
一方で手を通じて触れるケアについて十分な技術を持っていると感じている介護職の方は少ないのではないでしょうか。
リラクゼーションサロンやアロマサロン、マッサージ店などで働く施術家が行っている手技は、この安楽効果を高める有効な手として今注目を集めています。
介護職員さんがプロのボディタッチセラピーを身につけることで、ストレス・疼痛管理、自律機能の向上、免疫力の向上、QOL の改善をもたらすことができると考えられます。
本編では、なぜ?ボディタッチセラピーが必要なのかを言葉(理論)で、どのように触れれば気持ちよくなるか身体(実践)で解説しています。
気持ち良さ、心地よさ
副交感神経優位状態をつくることで、ストレスによる過剰な交感神経優位状態を抑制する。これにより様々なストレス反応を抑制。例えば、コルチゾルによる免疫抑制状態からの解放、海馬(感情形成に関与)の働きを取り戻し不安・抑うつ感の緩和、セロトニンの分泌を促した結果、認知レベルでの安寧効果をもたらす。
触れること
触圧刺激が痛覚刺激を抑制する(ゲートコントロール理論)ほか、オキシトシン分泌による安心感、自己愛感、リラックスを促がすとされている。また、心拍数の減少、血圧低下、睡眠の質改善(良好な休息)、精神障害児の症状緩和、喘息の呼吸機能改善などに効果があったことも報告されている。
・手浴時や足浴時に快を伴う施術ができる
・心地よい「背抜き」ができる
・体位変換やリハビリ補助で安全で気持ち良い触察ができる
・日々の介護からくる不調をセルフケアできる
+ 上記、普段から触れることで得られる効果を増進
桜美林大学リベラルアーツ学群 教授
早稲田大学 人間科学部 卒業
早稲田大学大学院人間科学研究科博士課程修了 博士(人間科学)
「触れる」ことをテーマに、20年にわたり研究。セラピストをはじめ、子育て、看護などさまざまな人を対象に幅広く研究を行っており、流派に捉われずエビデンスのある触れ方の質について追及。研究では特に「幸せホルモン」であるオキシトシンを分泌させるための触れ方について研究しています。
あん摩マッサージ指圧師、創作指圧奏間(SOMA)代表
10代の頃から手による治療を研究し、日本の大学院とアメリカの大学院で学びながら、研究者として様々な手技療法家の人たちと交流。また古武術や武道の修行のなか、周りの先生方が整体のようなものを実践している事を察知。そのような環境や影響もあり自然と整体の世界に。
今日まで体の使い方や動きを研究・実践してきており「体の使い方」の指導を得意とする。自分にとって楽な体の使い方ができると、技術の習得がしやすくなるのはもちろんのこと、腰痛や腱鞘炎などのいわゆる職業病の予防にもなることから「動きの理や利」を幅広く伝達。都内有名サロン立ち上げに関わり、著名人・芸能人などの施術を担当する一方、インストラクターとしても数多くの施術者、セラピストたちを育て、世に送り出す。訪問マッサージ、介護施設事業にも携わり、セミナー・ワークショップ講師としても活躍中。
私が働く介護施設に70代の女性が入居してきました。
寡黙な方で言葉のキャッチボールもうまくいかず、また周りの
利用者さんともコミュニケーションが取れていませんでした。
私自身はパーソナルスペースや目線などに気を付けながら
色々な話題をしてみたのですが、会話は続かず。
どのように接すれば、利用者さんの心は落ち着くのだろう・・・
言葉のキャッチボールをしたいというのは自分のエゴなのだろうか・・・
多くの利用者さんと接してきて、このように思うことは1度や2度ではありません。
介護に携わる人間として、一人の人として何とかできないかと、悶々とする日々。自分の限界を感じることばかりです。
そんなとき、私は、知り合いの施術家からマッサージについて教えてもらいました。
リラクゼーションで働く彼女は、人を癒すための方法を多く知っていたのです。
"手を触れること"
"足をさすること"
"人に触れる"ということだけでも、
介護福祉士と施術家には大きな差がありました。
普段やっていることだけでも、利用者さんに
「気持ちいい」と感じてもらえる方法があったのです。
それから、私は例の利用者さんに毎日の
他愛もない会話をしながら、
気持ちいい触れ方を心掛けるようにしてみました。
そんな日々を重ねたある日、利用者さんから。
「気持ちいいよ」
「もうちょっとやって」
そう言ってもらいました。
そこから不思議と会話がなくてもコミュニケーションをとることができ
利用者さんの笑顔も見ることができました。
本当にうれしかった瞬間です。
介護福祉士として、利用者さんの生活を支えるために
コミュニケーションを取りたいと考えていましたが、
ネガティブな感情に押しつぶされそうなこともありました。
しかし施術家の安楽を取り入れたことで、心が救われたような気がしたのです。